仲介手数料を半額取り戻し裁判
大手不動産仲介会社東急リバブル(本社東京都渋谷区)に東京簡裁での判決を覆し、東京地裁で大嶋 洋志裁判長は、受領した1か月分の仲介手数料の半額分約12万円を返還するよう命じる判決を下しました。
そしてそれに対し上告をしていた東急リバブルでしたが、1月14日東京高等裁判所で被告の上告を棄却しました。これにより一連の仲介手数料もらい過ぎ裁判の確定判決がでたということです。
これによりおよそ12万円余りの仲介手数料を返還することになったということになります。
争点は仲介手数料の事前の説明と承諾の有無
この裁判は、賃貸の仲介手数料が半額!!というところがクローズアップされています。ですが、仲介手数料が半額を超えてはならないというわけではありません。
規定における貸賃の半月分を超える報酬を借主に請求する場合は、事前(仲介の依頼成立時)にお客さんに説明と承諾を得なさいよということです。
それが、今回の場合その説明と承諾が得られていない、もしくは不十分と判断されてしまったわけですね。
日本中の不動産屋が判決結果に驚愕
このニュースを聞いた日本の賃貸不動産屋はどう感じているでしょうか。
ここまで厳密に言われるとほとんど全ての不動産屋はこの求められている説明と承諾を得られていないというのが結論です。
おそらく

が本音のところではないでしょうか。
つまり、今まで不動産賃貸業界においてほとんどこのような対策がなされていないということです。
今回の返還裁判はレアケース?
ハッキリ言いまして今回のケースはレアだと思っています。原告は、仲介手数料を払って契約をし入居し、数年たってからの返還の裁判をしています。
どの時点で疑問が出てきたかは不明ですが、かなりのメンタルの強さですね、すごい尊敬します。
でもこの裁判結果は、賃貸業界に喝を入れたのは間違いありません。
でも、もしこのようなメンタルの強さをお持ちの方に裁判を起こされたら、また労力の対価を度外視して行動に出られたならば、かなり不動産屋は大変になるということです。
それこそ、一昔前に流行った金貸しに対しての利息返還請求の嵐のごとく、仲介手数料返還を弁護士や司法書士が飯の種にしかねません。
なぜ、不動産屋が窮地に立たされるかというと、説明をするタイミングが難しいのと承諾の証明がないからです。
不動産屋は仲介手数料について説明
あれだけ不動産屋は仲介手数料のことについて説明していたじゃないですか?


しかし、残念なことに肝心の本来説明すべき、通常の規定より多く報酬(仲介手数料)をもらうときだけ事前に何にも説明しておらず、承諾なんて全然もらっていなかったのです。
仲介手数料の事前説明の妄信
まず事前の仲介手数料の説明ですが、おそらく多くの不動産屋が感じているのは図面に書いてあるんですがね。。。
不動産業者のホームページや店頭に仲介手数料半額や無料の文字はあっても、仲介手数料1か月とわかる告知は消極的であったことは否めません。
そしてそもそも仲介手数料が1か月やら半月やら無料やら物件によってマチマチですから、そんな表示では十分であるわけがありません。
また店頭には宅建業法に基づく報酬額の提示をすることになっていますが、あくまで原則を書いてあるだけでそれぞれの物件の仲介手数料に対応したものではありません。
では、具体的な紹介物件に仲介手数料についての表示はあったのかを見てみます。
実は、個別の物件について仲介手数料について言及したものはあるんです。
あまり気が付かないかもしれませんが、物件のネット情報での各物件の詳細欄には仲介手数料の負担額が記されております。
そして、店頭で見ることができる『物件資料』(通称マイソク又はアットホームの図面)の下帯の右部分です。
実際の表示の代表例を作成してみました。こんな表示が図面右下あたりにひっそりとあります。
こんなような表示見たことありませんか?もしかしたら、物件資料をもらって家でじっくり見たことがあれば気が付いたかもしれません。
ちなみにこれは、仲介手数料の負担1か月分のうち100%(つまり1か月分)を借主が負担し、その報酬は客付けした不動産屋が100%(つまり1か月分)取得するということを意味しているんですね。
でも、この部分の記載が非常に大切なことが書いてあるのにもかかわらず、他社不動産屋の情報が書いてある(下帯)部分を自社の帯に変えるとき残念なことに空欄にしたままなんてことがあるんです。
話は元に戻りますが、この表示で『仲介手数料の借主の負担を説明する』という1つ目のハードルはクリアしたと不動産業界全体で勘違いしていたか、高をくくっていたのかもしれません。
そして仮に表示はしていても、お客さんにわかるように説明を個別の物件ごとに事前にしていたかどうかは極めて怪しいと言わざるを得ません。
宅建協会は模範となる営業フロー
宅建協会は、法令順守を示していましたが、この法律規定に要請される営業フローを提示及び周知をさせていたのか?
というのは疑問が残ります。やはり、不動産屋の営業方法を調査収集して問題点があるかを検討するべきではなかったでしょうか。
しかし、不動産屋が仲介手数料の説明と承諾を得られている件については不十分であったけれども行っていた経緯はあります。
半月を超える仲介料請求時
お客さんが仲介手数料を含め自分に請求される契約金の諸費用がわかる場面があります。
それは
重要事項説明書を宅地建物取引士から説明を受ける段階
賃貸契約金の精算書をもらったとき
賃貸契約金の支払いをしたとき(主に銀行振り込み)
この時にはさすがに仲介手数料がどれだけかかっているのかはわかるはずですが、これでは説明の時期も方法も不十分だということなんですね。
仲介手数料は店でなく物件
仲介手数料が店で全て無料とする場合もありますが、1か月分取らないといけない物件もあります。
となると、1つずつ物件ごとに説明する必要があります。タイミングは現実的に言えば物件の紹介をしたときということになりますが、紹介は実際店頭で物件図面を紹介したときなのか?
わかりません。実際物件が決まっていればいいですが、決まる前からその都度仲介手数料について説明があれば煩わしいですし店頭に来店したときに説明すると思われます。
部屋の紹介の仕方は多様化
今は、ネットで探すことが多いですから仲介手数料の説明をきちんとするとなると、その問い合わせを受けた時にきちんと説明する必要があるということになります。
問合せを受けて、そのまま現地で案内なんてこともありますから忘れないようにしないと大変です。
承諾の書面をとる必要性があるか
もし、今回のように仲介手数料の説明をしたかの争いになったときは証明するものがありません。このとき書面をとることが必要になるということになるのでしょうか?
ちなみに大家さんの募集依頼は媒介契約書を書面にて残しています。なぜかと言えば大家さんをある意味拘束するためです。つまり拘束しなくてはいけない何かがあるからです。
そして大家さんとの関係は募集を受けて書面を受けるタイミングも時間的余裕もありますが、部屋探しのお客さんに対して書面をとるということはやはり大変と言えます。
一番効率的な方法は、入居申込書を書く前段階で説明承諾をするのがいいと思いますが、多分それだとダメということになるでしょう。
物件の紹介をするとき、つまりお客さんが検討段階に入る前にするのがベストということになるのでしょう。
東急リバブルは仲介料請求時
おそらくこれは予想ですが、大手の東急リバブルは一般的に従来不動産業者が行っている方法で物件を紹介し、仲介手数料を取得したものと思われます。
ということは、今までの一般的に日本中の不動産屋が行っている仲介手数料の請求方法はこの裁判の判決で不十分と判断されたということです。
これは、東急リバブルという1つの業者の問題ではありません。不動産業界全体の怠慢であるとしかいいようがありません。
宅地建物取引協会はきちんと法制に沿った不動産物件の紹介から契約までのオペレーションの原則のようなものを各業者に周知徹底させていたのでしょうか?
実際、不動産屋というのは、知識がお客さんと変わらないような人が多数働いているのも現実です。
今回のことで、仲介手数料って原則半月ということを初めて知った人も多いと思います。それだけ借主から1か月分をもらうことが常識になっていたとも言えますけど。。。
先ほど挙げた仲介手数料の負担と配分割合の表もキチンと理解していない人も営業マンの中に少なからずいます。
仲介客付けの100%の記載を『広告料』のことだと思って、猛抗議してきた営業マンも結構よく知られている大手仲介不動産屋にも実際よくいるんです。



同類の裁判が今後起こり得るか?
このような、賃貸の仲介手数料返還請求裁判が今後いたるところで起きうるかについては少々疑問の余地があります。
このような仲介手数料裁判をするために費用と労力が対価として合わないということです。
仲介手数料を支払って説明されてなく承諾もしていないというためにはそれなりの根拠が必要です。
暗黙の了解と思っていたものが、根本から覆されてしまうといざこれを行おうとする場合は大変です。
物件を紹介するシステムが簡素化になる流れがここで一つ課題が生じてしまいましたね。
仲介手数料の負担説明と承諾
しかし、この裁判の判決で不動産屋ざわつくことが予想されます。
賃貸物件の仲介不動産屋が半額を超えるの仲介手数料をもらうために厳密な流れはこうなります。




という流れにならなければなりません。
今回のような裁判を想定すると何らかの正式な依頼書の作成が必要になるかもしれません。
ネットで電話のみで対応している場合には書面のやり取りをしてからのほうが、不動産屋からしたらリスク回避の面からよいでしょう。
その書類の期限はどのくらいかとか、再締結の必要があるのかなどいろいろあるでしょう。しかし、大半の不動産屋からすれば物件紹介の流れからしてやりずらいとという感想が多いと思います。
いきなり、お金のかかる話をしたくないですし、書面や承諾を得てからとなると営業スピードに欠けるからです。
世の中には慣例や慣習に浸っていると本質というか、原則が見失われてしまうことが多いですよね。
これも、『原則はこうだけども、効率を考えたらこうなった』という典型例の一つと言えるんです。しかし、例外の割合を仲介手数料をもらうならば事前説明して承諾を得なさいという当たり前のことなんです。
そしてそもそも仲介手数料は仲介に対しての手数料。募集を依頼した貸主と物件を紹介依頼をした借主からもらうのが当たり前の考えで、貸主の負担部分を借主が負担するのはおかしいですよね。
例えば、お客さんが仲介手数料は原則賃料の半月分と知っていてとします。何の説明もないで契約時1か月分請求されたらびっくりしますよね。
これを1か月分で当たり前だからと言われても納得できないわけです。今、借主から1か月分もらうことが常識的になっていますから、初心に戻って物件の紹介の仕方を見直さないといけない時期になったとおもいます。
賃貸不動産業界の進むべき道
この判決を受け賃貸不動産業界は、大きな課題を突き付けられました。
このことによって賃貸不動産業界は変わらなくてはいけないということです。
賃貸仲介手数料の原則
仲介手数料を貸主からもらわないで借り主に負担させるのかには理由があると思います。
それは、借主は貸主より低く見られているということです。
お客さんは待っていれば来るが、大家さんは、所有している物件(商品)を依頼してくれる人という位置付けが今でも根強くあるということです。
大手不動産屋の中では大家さんからきちんと半月分をもらっているところも出ています。
仲介手数料借主から1か月分ありきで業務フローを見直すのはやめたほうがいいですし、
賃貸営業のフローの改革
お部屋探しは店頭からネットに変わりつつあり、今はちょうど半々で中途半端な過程にあると思います。
仲介手数料に転嫁しなくてはいけないのは、店舗維持費や案内、従業員の確保があります。
仲介手数料というのは成功報酬のため、家賃の下落傾向で仲介手数料に疑問が出てくる時代をみると大きな営業フロー改革が必要ということです。
賃貸の引越しがもっと気軽なものにするべきです。ホテルで宿泊しているようになればたとえ部屋探しに失敗したとしてもそこまで痛手ではありません。
そうなれば、ネットだけでお部屋を選ぶことが可能になりますし、わざわざ部屋の内見をする必要がなくなってきます。
仲介手数料で差別化を図るのは無理
今、小規模の不動産仲介会社が生き残る手段として、仲介手数料が安いもしくは無料にするか、入居審査があまいという物件など特徴のあるものです。
これは、自社で手持ちの物件がない不動産屋の手法ですが、簡単に言えば市場に出回っている物件の整理整頓をしているんです。
つまり、仲介手数料を無料にでき、利益が取れる物件、入居審査が甘い不動産屋から物件を集めてそれを紹介しているということです。
残念ながら、これだけ時代が進んでいても日本全国で募集されている物件をもれなく検討できる手段はありません。
この探しづらい賃貸不動産業界の短所をうまく仕事にしているということです。
そして賃貸不動産の仲介はさらに根幹の部分を変えなくてはいけません。要は不動産屋の店舗で営業をしないという仕組み作りです。
その鍵となるのがネットですべて完結するということです。保険業界が取り組んできた改革を迫られているのです。
保険も商品によりネットでの売れ行きが異なることもありますが、賃貸の場合の課題は商品が一様でないということです。
営業は不要になっても一つ一つの物件を安全に契約できるかがポイントになってくるでしょう。
最近では、仲介手数料を貸主半月分、借主半月分と原則通り徴収している不動産屋もかなり多くなりました。これはすごくいい傾向であると思います。
今まではあまりにも貸主の立場が強かったため、借主が1か月負担するのが当たり前でしたが、空室の長期化を防ぐ対策のためそうもいっていられなくなりました。
大家さんも仲介手数料を負担することを知らないとか、抵抗ある人も多いと思われます。今まで負担していないものを負担するわけですからとても嫌ですよね。
しかも募集時に別途広告料を負担していることが多いので賃貸経営をする大家さんはますますやりづらい世の中になってきましたね。
今回の裁判を受けて今後の見通し
まずは、仲介手数料に関する原則と不動産業界の現状をよく知ることが大切です。
今回仲介手数料を返還する判決を得るためには原告も手続きが大変だったことでしょう。
できればこのような問題になる前に事前に避けたいものです。つまり、原則仲介手数料は『賃料の1か月分を上限として、貸主借主ともに半月分』が原則であること。
そして半月分以上を負担させるときは紹介前に説明し、同意が必要ということです。
とりあえず1か月分の仲介手数料をもらう業者は、この裁判を受けて慌てて対応せざるを得ないのですが中小の不動産屋は大手の不動産屋の方法に倣っていくと思われます。